大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成元年(オ)54号 判決 1989年9月21日

千葉県成田市天神峰三三番地三

上告人

小川嘉吉

被上告人

右代表者法務大臣

後藤正夫

右指定代理人

篠原睦

千葉市仁戸名町五三九番地

被上告人

中村勲

千葉県船橋市習志野台二丁目二一番一四号

被上告人

松戸亮

右両名訴訟代理人弁護士

中村勲

右当事者間の東京高等裁判所昭和六三年(ネ)第一一一二号相続税申告国家賠償請求事件について、同裁判所が昭和六三年一〇月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、ひっきょう、原審の認定に副わない事実又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 大堀誠一)

(平成元年(オ)第五四号 上告人 小川嘉吉)

上告人の上告理由

第一 原判決は、以下に述べる理由から憲法第一四条(法の下の平等)に違反する。

一 (はじめに)本件相続税申告国家賠償請求上告の真実の経過は、昭和四四年八月十三日の相続税申告時における松戸係長が一方的に作成した申告書を詐欺行為により上告人が申告書へ捺印を強要されたものであり、意思表示における明白な瑕疵によって起こったものである。しかも、松戸係長の作成した申告書の基準になったのは、上告人の農地を空港予定地として空港公団に近々売却されると仮定して、評価したものであり、上告人の意思とは全く反しており、その後の現実にも反している。松戸係長は、相続税法第二二条の「相続財産は時価で評価する」との規定に反して納税者を欺くものであり、とうてい許されないものである。

本件相続の財産評価及び課税方法は、次に述べるとおり、違法・無効である。

二 1 新東京国際空港建設事業において、空港本体のみを空港公団に売却することと仮定して課税の対象にしたことは合理的根拠は存在しない。

空港公団の空港工事実施計画は、空港本体・保安無線・航空灯火の三つの事業に分けられている。公団の買収予定は前記三つの事業地域と騒音防止による騒音区域である。空港公団は空港建設のめにはいずれの地域も買収しなければならない。実際に買収を進めている。しかし、本件相続税課税においては、空港建設敷地のみを取り上げ特別の評価基準を設け、その他の地域については、通常の農地の地目別の評価に倍率で計算した評価にすることとしている。「空港公団と条件派三団体と昭和四三年四月にアプローチイリア(保安無線・航空灯火)の土地と滑走路の先端二キロメートル、滑走路の中心から巾六〇〇メートル以内の騒音区域の土地を空港敷地と同じ条件で買収すると売買契約が締結されていた。」(この土地については、空港公団の買収価格が同じであるのに、相続税の課税評価は通常の農地と同じ倍率方式の評価で計算して課税している。)

このように空港建設事業について見ただけでも本件相続税課税の恣意性、不明確性は明らかである

同一事業において、恣意的に課税基準を決めて、署員が納税者の意思を踏みにじって一方的に申告書を作成してしまい、申告書を書き改めるよう求めても時間がかかり遅くなると受け入れず、今日が申告の期限の日だから申告書の提出を強要した。更正請求は後日にできると説明して、信用させて申告書を提出させた。その後、税務署に更正の請求に行ったところ、申告書を提出してしまったら更正ができないと、署員が作成した税額を収めるように言って、更正請求はできないと拒否して何も教えてくれない。土地を空港公団に売ることを仮定して税金を取り立てようと、行っても門前払いと同様の扱いされた。上告人は、税務署員に仕組まれ計画的で不親切な行為で更正請求の期限が徒過させられ、更正請求の申立書を提出したときは期限が過ぎてしまった。そして税務署は、相続税債務が確定したと納税者を踏みにじることは法の下の平等に違反し許されない。

2 本件相続税の農地の課税は、空港建設予定敷地外農地の評価額の四倍という高額で評価されて、上告人が空港建設に反対して買収に応じないことが明確であるにもかかわらず、単に本件土地が空港建設予定地内に存在しているという理由だけで不平等な相続税の課税価格を設定することは、憲法第一四条の規定による租税公平の原則に違反している。

3 上告人の相続の前後に、空港建設予定地内に居住して相続が発生した例が数件あるが、いずれの場合にも、本件評価基準によらずに通常の農地の倍率方式によって評価、申告がされている。本件評価基準が適用されたのは上告人だけである。

本件評価基準によらずに従来の倍率方式によって評価、申告がされた。成田市十余三、岩沢庄平、芝山町香山新田、瀬利彦助等は、空港公団に土地を全部売却している。しかし、土地を空港公団に売却しても、本件評価基準に課税評価によらずに、従来の倍率方式によった評価で相続税が課税されている。

空港敷地を空港公団に売却していない、売り渡しする意思のない土地に対し、空港公団に売却することと仮定して、本件評価基準を適用されたのは上告人だけである。

本件事件の根本的原因は、上告人が空港予定地の農地の売り渡しを拒んでいることに対して、国側が報復的に差別的な「申告」を強制したことにある。その非は、憲法及び法律に照らしても国側並びに担当した成田税務署、松戸係長にある。「税の不公平」

4 成田税務署長、松戸係長は、空港公団に土地を売却した人に対しては、従来の倍率方式によって通常の農地の評価で計算して相続税を徴収している。上告人は、空港公団に土地を売却する意思もない、売り渡しもしてない土地に対し、空港公団に売ることを仮定し評価されて相続税が課税されている。

このような重大かつ、不公正、不平等な差別を受けていることは憲法第一四条の租税公平の原則に違反する。

5 このように、土地収用法よっても土地の収用できない、現在も農地として実在している。地方自治の成田市も農地として税金を徴収して、空港敷地として扱いをしていない。上告人は、税務署に空港敷地と決め付け空港公団に売却することに仮定にした空想により事実と一致しない架空の机上の計算により、納税者の意思を無視して一方的に申告書が作成されて相続税が課税された。そして、遮二無二税金を取り立てようと悪辣な行為で更正請求をしなけらならぬよう仕組まれ、更正請求の期限が経過したので相続税債務が存在すると、土地を空港公団に売却することと仮定して計算した税額五三三万五千円から、従来の倍率方式で通常の農地で計算して、既に納税してある四七万七千円を差し引いた金額四八五万八千円を徴収するため、千葉県香取郡大栄町新田字道印田台 地目 山林 一五五番地 外二筆 面積 三五〇三平方メートルの不動産を昭和四八年十一月二十一日つけで差押処分をした。

本件相続税課税の対象物件は農地である。現実に空港敷地でない農地である。このように差別的適用がなされていることは憲法第一四条の租税公平の原則に違反する。

このような重大かつ明白な誤りを裁判所が判断しないことは、原判決が憲法第一四条に違反するものにほかならない。

第二 原判決は、以下に述べる理由から憲法第八四条(租税法律主義)並びに憲法第三〇条(納税の義務)及び憲法第二九条(財産権)に違反する。

一 本件申告書は、前記で述べたように、成田税務署、松戸係長が原告を無視して通達(東京国税局発行「評価基準」)に基づいて書いたものである。

更に、上告人が相続財産は農地であり空港と関係がない旨述べ、松戸係長に書き直すよう求めた際、松戸係長が上告人に通達によって評価基準は決まってると述べ、上告人の意思をはねつけたのも通達によってである。

このように、通達が上告人に法律のごとく強制されたのは、憲法第八四条の租税法律主義の原則に反し許されない。

通達とは、行政組織内部の行政機関に対する命令であり、国民の権利・義務を定めた法規ではない。通達により、国民に納税義務を発生させることは出来ないとしている。

よって、原判決がこの重大な点について判断を欠いたことは、憲法第八四条に違反するものである。

二 納税は、憲法第三〇条に由来する申告納税制度は、法的には納税者の申告行為に「納税義務確定」という法的効果を付与する制度である。納税者は、この申告に基づいて納付書で自発的に納期限までに納税しなければならない。反面、自己の申告した分似ついて、別段、税務行政庁から納税通知書などの送付を待って納税するものではない。

ところが、成田税務署が納税者自身(上告人)の納得の申告を認めず、税務署内部の基準に沿った申告を無理矢理、強要したのである。

すなはち、本件相続税申告において、国民主権の憲法第三〇条に由来する主権者たる上告人の納税者としての権利行使(納税申告権『納税者による納税義務確定権』の行使)を妨害し、剥奪したのである。判決は、右の点についての判断を回避したものであり、憲法第三〇条に違反する。

三 本件相続課税対象物件の純粋の農地に対して、空港公団に空港敷地に売り渡すことと仮定して、特別の評価基準によりが相続税を課税して無理矢理に徴収しようとして不動産を差し押さえ処分をした。ところが、相続税の課税の対象物件となった農地は、空港公団にも売却されない、収用法でも収用できない、空港用地になっていない。依然として農地として現存している。真実と違って一致しない仮定で課税をしたことは、成田税務署、松戸係長の不法行為によるもので誤りは明白である。

この不法行為において差し押さえ処分した不動産を競売され、土地収用法より悪質で非道なもので、主権者たる上告人の財産を只で押収してしまうものであり、憲法第二九条(財産権)に違反する。

第三 成田空港建設事業は違法である。

空港建設の根本になるのは、工事実施計画の申請及び認可である。この手続きは、航空法の規定に当てはまっていない。同法では、空港用地の土地取得の見通しがついたから、工事実施計画を決めるように指示さしている。政府、空港公団は無視して三里塚では用地取得の見通しがたたないのに、計画をゴリ押ししてきた。同法では無用で違法な土地収用法をもって土地を強奪しうとした。しかし、土地収用法は効力を発揮できず失効(事業認定の告示から四年)になり土地の収用もできない。違法な事業認定の告示して効力がないまま十九年近く放置する違法行為をしている。

成田空港二期工事の空港敷地が取得できていない。空港公団が「空港敷地が確実に取得できることを証明する書類を添付して」認可の申請をする。運輸大臣は、「空港敷地を確実に取得ができることを確認して」認可することと、航空法で定められている。しかし、工事実施計画の認可の告示から二十二年近く経ても空港敷地が取得できていない。

これは、航空法の規定に違反しているのは明白である。

第四 原判決は、以下に述べる理由から憲法第三二条(裁判を受ける権利)に違反する。

一 右のように本件で争われている相続税の申告で、税務署長松戸係長は空港公団に空港敷地として売却すると仮定して計画的に申告書が作成された。そして、納税者に更正請求しなければならぬよう仕組まれ、更正請求の手続き方法を教えずできないと拒否して、更正請求できる期間を徒過させてしまった。

これにより、相続税債務が存在すると昭和四八年十一月二十一日に不動産差し押さえ処分をした。競売をさけぬよう防止するため、不動産差押処分取消請求・相続税債務不存在確認請求の訴訟を起こしたが最高裁判所まで上告を棄却した。これで、不動産が競売されることに確定したことになる。

相続税の対象物件の農地を空港公団に空港敷地として売却すると仮定して課税したものである。しかし、空港敷地として金に替えていたなら競売されてき仕方がない。現在も空港敷地ではなく農地である。仮定による課税で税金を取り立てようと不動産を差押処分することは違法で許されない。

二 原判決文、三枚目表二行目の、控訴人が本件申告に基づき五三三万五〇〇〇円の相続税納付義務を負担していること及び昭和四八年十一月二十一日になされた本件差押処分が適法なものであることは、既に前訴(一)、(二)の判決により確定しているところであって、この確定判決の効力は、対象土地(本件農地)が現在も農地であるか否かにより何ら消長を来すものではない。と、棄却している。

本件申告の相続税の課税対象物件は農地である。本件で金額五三三万五〇〇〇円の相続税納付義務を負担していること及び昭和四八年十一月二十一日になされた本件差押処分が適法なものと判じしている。この金額は、「千葉県香取郡大栄町吉岡字木挽谷一六二六番一四外三筆、」この本件農地を空港公団に空港敷地として売却するものと仮定した計算である。

しかし、課税対象物件は、現在も依然農地として農作物が作付けされている。空港建設敷地になっていない。事実無根の存在しない仮定の計算で税金を取り立てるため、本件不動産差押処分したことは現実と一致しない、土地収用法よりも悪質で土地を只どりする行為を原判決はこれを指示している。これは、事実誤認の判決と言わざるをいない。

三 前訴、(一)、(二)で(相続税納付義務及び差押処分)は適法と確定している。この確定判決の効力は、対象土地(本件農地)千葉県香取郡大栄町吉岡字木挽谷一六二六番一四外三筆の土地が現在も農地であるか否かにより何の消長を来するものでないと退けている。「確定とは、事実と一致していることであります。」

しかし、本件相続税課税の対象となった、本件農地を空港公団に空港敷地として売却することと仮定して課税したから、五三三万五〇〇〇円になったのである。本件農地を仮定よらず事実によって課税評価すれば、こんな数字にはならない。本件農地は、空港敷地でない、現在も農作物が作付けされ依然として農地である。本件農地は、曖昧な評価基準で仮定による課税した違法行為は許されるものではない。原判決は、事実に反する歪曲しているものである。

四 前訴、最高裁判所の上告棄却の判決「昭和五九年九月十八日」で差押処分された物件が競売できると確定されたことになる。しかし、事実と一致しない確定とは違っているのは冤罪にあたる。

これでは、国民主権の平和憲法に保障された基本的人権が損なわれる。その防止に、憲法第二九条、財産権を侵害されぬため、国家賠償法第一条第一項を求める上告を認めるべきであります。

公共の福祉の美名を口実にして、行政府、空港公団は成田空港の建設に伴い、法の規定を犯してきた。そして主権者の農民は基本的人権を侵害されてきた。今までの裁判所の判決は、事実と違って一致しない仮定によるものが採用され、事実は歪曲されて退かれている。

いずれの点からみても原判決は、公共事業の美名を口実の陰において、真実と違う仮定により、実際に損害を被るものであります。違憲・違法であって、破棄されるべきものである。

最高裁判所に、国の掟である国民主権の平和憲法に保障さた基本的人権を尊重擁護し三権分立の精神に則り、現実と一致した厳粛公正誠実な判断を求めます。

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